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実家を相続して、誰も住んでいない家の鍵だけが手元にある。固定資産税の納税通知書が毎年届いて、近所からは庭木のことを言われ始めて、そろそろ売ろうかと思ったところで手が止まる。不動産会社に電話すればいいのか、市役所なのか、それとも司法書士が先なのか。ここが分からないまま数年放置されている空き家は本当に多いです。
相談先を並べただけの記事はネットにいくらでもあります。この記事で書きたいのは誰に、どの順番で、何を持って相談するかです。順番を間違えると、査定してもらったのに売れない、そもそも売る権利がまだ自分にない、という事故が起きます。
空き家の売却相談、まず「どこ」に行くべきか
結論の分岐だけ先に置きます。名義がすでに自分(または売る本人)になっているなら不動産会社が最初、名義が亡くなった親のままなら司法書士が最初です。ここが最大の分かれ道で、上位に出てくる「相談先一覧」の記事はここを飛ばして窓口の種類だけを並べています。
もう少し細かく分けます。
- 相続登記が済んでいない/兄弟の共有名義になっている → 司法書士。売買契約は名義人全員の意思がそろわないと進みません。査定だけ先に取っても、話がまとまる前に有効期限切れになります。
- 名義は済んでいて、建物を残すか壊すか迷っている → 不動産会社。解体費を先に調べる人が多いのですが、順番としては逆です。古家付きのまま買う需要があるエリアかどうかで、壊す意味が変わります。
- 税金の扱いが心配(相続した空き家の特別控除など) → 税理士。ただし売却価格の目安がないと計算のしようがないので、実務上は不動産会社の査定を先に取ってから税理士に持ち込む流れが動きやすいです。
- 建物がかなり傷んでいて、売れるかどうかも分からない → 不動産会社と自治体の空き家相談窓口の両方。市区町村によっては空き家バンクや解体補助の制度があります。制度の有無と条件は自治体ごとに違うので、役所の担当課に直接確認してください。
僕が業界にいた感覚で言うと、空き家売却でつまずく人の大半は物件のせいではなく名義と相続でつまずいています。土地建物の状態は不動産会社が何とか値段を付けます。でも、相続人の一人が海外にいる、認知症の親が名義人のまま、といった状況は不動産会社にはどうにもできません。そこは司法書士や弁護士の領域です。相続や登記が絡む見込みがある方は、早い段階で司法書士・税理士など専門家に相談しておくことをおすすめします。
相談する前に自分で確認しておくべき3つの書類
相談窓口を間違えないために、電話をかける前に見ておく書類が3つあります。登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税の納税通知書、そして権利証または登記識別情報通知です。
登記事項証明書は、法務局の窓口かオンラインで誰でも取得できます。ここで見るのは「所有者の欄が誰になっているか」と「抵当権が残っていないか」の2点だけ。所有者が亡くなった親のままなら、相続登記が終わっていないということです。抵当権の抹消登記が済んでいない古い借入の記録が残っているケースもあり、これも司法書士案件です。
固定資産税の納税通知書は、毎年春に届くあの封筒です。ここには課税明細として土地の地積や建物の床面積、固定資産税評価額が載っています。不動産会社に査定を頼むとき、この納税通知書のコピーがあると初回の精度が一段上がります。逆にこれが手元にないと、住所しか情報がないので概算しか出せません。
権利証(または平成以降の登記なら登記識別情報通知)は、探すのに時間がかかることが多い書類です。仏壇の引き出しや貸金庫から出てくるのが定番で、見つからない場合でも売却は可能ですが、司法書士による本人確認情報の作成など別の手続きと費用が発生します。見つからないと分かった時点で司法書士に伝えておくのが手戻りが少ない進め方です。
不動産会社の無料相談はなぜ無料なのか、査定後に何が起きるか
不動産会社の売却相談と査定が無料なのは、売買が成立したときの仲介手数料で回収する前提のビジネスだからです。相談料を取るモデルではなく、媒介契約(売却を任せる契約)を取れるかどうかで会社の収益が決まります。だから査定は入口の営業活動そのもので、無料であることに裏はないけれど、査定額が純粋な鑑定結果とも限りません。この構造を知らないまま「一番高い査定を出した会社が一番実力がある」と考えると、後で苦しくなります。
ここから先は、僕が在籍していた頃に社内で普通に行われていたことです。
媒介契約は3か月更新です。専任媒介・専属専任媒介は法律上3か月が上限で、実務では一般媒介も同じサイクルで回します。そして社内では、1回の契約期間で1回は価格改定(値下げ)を提案するという流れが定着していました。提案のタイミングは契約期間の後半、つまり更新の話をするのとほぼ同時期です。
提案の仕方も型があります。ポータルサイトの反響数、問い合わせ件数、内見数の推移をまとめた資料を用意して、数字を根拠に説得する。「3か月で反響が○件、内見が○件。この価格帯だと市場が反応していません」という説明は、資料が整っているぶん説得力があります。売主側からすると反論しづらい。
ただ、僕が現場で見ていた限り、反響が鈍い原因が「相場が悪い」ではなく「最初の査定額が高すぎた」ケースが実際にありました。媒介契約を取るために強めの価格を提示して、売り出してから市場に修正させる。悪意でやっている人ばかりではなく、営業の構造がそうなりやすいだけです。売主に価格を提案するときに低い数字を出せば、他社に決まってしまう。だから高く出る。
だから、値下げ提案が来たときに売主が持つべき視点はひとつです。「相場が悪い」の前に「入口の査定額が高すぎた可能性」を疑ってよい。これは疑って失礼な話ではなく、次の3か月をどう戦うかを決めるために必要な確認です。査定時にもらった資料を引っ張り出して、どの成約事例を根拠にその金額を出したのかを聞き直してみてください。根拠事例が説明できる担当者なら、値下げ提案も信頼して受け止められます。
最初の査定額を信じていいのか―複数社に相談する意味
最初の査定額をそのまま信じるのは危険です。理由は前のセクションのとおりで、査定額は媒介契約を取るための提示価格でもあるという二重の性格を持っているからです。1社しか聞いていないと、その数字が高いのか安いのか、判断する基準そのものが手元にありません。
複数社に相談する目的は「一番高い会社を選ぶこと」ではありません。査定額のばらつきの幅と、その根拠の説明の質を比べることです。3社に聞いて、たとえば2社が同じくらいの金額で1社だけ大きく高い、という並びになったとします。この場合に見るべきは高い1社の根拠で、成約事例で説明できるなら検討の価値があり、「うちなら売れます」しか出てこないなら入口だけ高い数字の可能性があります。
空き家は特にばらつきが出やすい物件です。建物の残存価値をどう見るか、古家付きで売るか解体前提で売るかで、同じ土地でも査定の組み立てが変わります。この違いがなぜ生まれるかは不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由で詳しく書きました。
名義の確認が済んで、あとは売り方を決める段階まで来ているなら、複数社の査定を並べて比べるのがいちばん早い。1社ずつ電話するより、複数社にまとめて依頼できる一括査定を使ったほうが、比較の材料が短期間でそろいます。
空き家バンクと不動産会社、相談先としてどちらが向くか
空き家バンクは自治体が運営する空き家情報の登録・紹介制度で、不動産会社の仲介とは役割がまったく違います。期限を決めて現金化したいなら不動産会社、移住希望者などに使ってもらうことを優先したいなら空き家バンクという分け方が実務的です。
空き家バンクは登録しても営業活動をしてくれるわけではありません。掲載されて、興味を持った人からの連絡を待つ形が基本です(自治体によって運用は異なり、地元の不動産会社と連携している自治体もあります)。買い手が付くまでの期間は読めません。一方で、市場では値段が付きにくい立地・状態の家でも、移住や二拠点生活を探している人には需要が生まれることがあります。
不動産会社の仲介は、レインズ(業者間の物件情報網)とポータルサイトに載せて買い手を探す仕組みなので、動くときは早い。ただし売れる価格帯に収まらない物件は、そもそも媒介を断られることもあります。「売れるかどうか」の判定を早く欲しいなら不動産会社に持ち込むのが確実で、断られた理由の説明が、その空き家の市場価値そのものを教えてくれます。
両方に相談しても構いません。空き家バンクの登録要件と、仲介での売却を並行できるかは自治体ごとにルールが違うので、役所の担当課に「仲介と併用できますか」と一度聞いてみてください。
今週やるなら、この2つから
やることを2つに絞ります。
ひとつ目は、法務局で登記事項証明書を取って、所有者欄の名前を確認すること。オンライン申請でも窓口でも取れます。ここが亡くなった親の名前なら、不動産会社より先に司法書士です。相続人が誰と誰になるのか、遺産分割はどう進めるのかを整理しないと、査定額を見ても意思決定ができません。相続と登記は税額にも直結するので、司法書士・税理士への相談を早めに挟むことをおすすめします。
ふたつ目は、名義が済んでいる場合。査定を依頼するときに「その金額の根拠になった成約事例を3件出してください」と最初に伝えること。これを言われて資料を出せる担当者と、出せない担当者ではっきり分かれます。そして媒介契約を結ぶときには、契約期間が3か月であることと、契約後半に価格改定の提案が来る可能性をあらかじめ想定しておいてください。想定していれば、提案が来たときに慌てずに「入口の査定額が高すぎたのか、市場が動いていないのか」を切り分けられます。
売却の全体像がまだ掴めていない方は家を売る流れ全手順|8ステップと後悔しない媒介契約の選び方を、査定後にかかってくる電話が気になる方は査定後の営業電話がしつこい理由と対処法を元業界人が解説を先に読んでおくと、相談の場で主導権を握りやすくなります。
よくある質問
Q. 相続登記が終わっていない空き家でも、不動産会社に査定を頼めますか
査定自体は依頼できますが、売買契約は名義人全員の意思がそろわないと結べません。相続人が複数いる場合や名義が亡くなった方のままの場合は、司法書士に相続登記の相談を先に入れたうえで、並行して査定を取る流れが現実的です。登記の期限や必要書類は個別事情で変わるため、司法書士に確認してください。
Q. 空き家の売却相談は無料ですか。有料になるのはどこですか
不動産会社の売却相談と査定は無料が一般的で、成約時の仲介手数料で回収する仕組みです。一方で司法書士・税理士・弁護士への相談は有料になることが多く、金額は事務所ごとに異なります。初回無料相談を設けている事務所もあるので、電話で相談料の有無を先に聞いてから予約するのが確実です。
Q. 査定額が3社で大きく違いました。一番高い会社に頼んでいいですか
金額だけで選ぶのはおすすめしません。査定額は媒介契約を取るための提示価格でもあるため、根拠となる成約事例を説明できるかどうかで判断してください。媒介契約は3か月更新で、契約期間の後半に価格改定の提案が来ることは業界では珍しくありません。高い査定額をそのまま鵜呑みにすると、売り出し後の値下げ交渉で時間を失います。



