業界のリアル

不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由

不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由

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たとえば3社に査定を出してもらって、2,800万円、3,000万円、3,400万円という数字が並んだとすると、同じ家なのに600万円の開きです。どれが本当の価値なんだと画面の前で固まっている——たぶん、そういう状況でこのページに辿り着いたはずです。

結論を先に言ってしまうと、査定額がバラつくのは異常でも詐欺でもありません。ただし、バラつく理由の中に「読者が知らないと損をする種類のもの」が確実に混ざっています。僕は前職で一棟収益不動産の仲介と管理をやっていて、査定額を作る側にいました。中でどういう計算と、どういう会話が行われているのかを書きます。

査定額が会社ごとに違うのは、そもそも「予想価格」だから

不動産の査定額は、その金額で売れることを保証する数字ではありません。「このくらいで売れる可能性がある」という各社の予想であり、根拠となる取引事例の選び方も、査定に使うマニュアルも会社ごとに違います。多くの会社は不動産流通推進センターが作成した査定マニュアルを使っているとされていますが、大手の一部は独自マニュアルを持っています。前提が違えば答えが違うのは、当然といえば当然です。

参照する成約事例ひとつ取っても、直近3か月の同じマンションの別部屋を使うのか、半径1km以内の似た築年数の物件を使うのかで、結果は数百万円動きます。担当者の経験年数や、その支店がそのエリアでどれだけ取引しているかも効いてきます。地元で年間何十件も回している会社と、そのエリアが不慣れな会社では、事例の引き出しの数が違うからです。

だから金額の数字そのものを並べて比べても、あまり意味がありません。見るべきはその数字がどう作られたかです。以下、現場で実際に何が起きているかを3つ書きます。

想定賃料の置き方ひとつで、査定額は数千万円動く

収益物件の査定は、想定賃料の置き方ひとつで数千万円変わります。これは誇張ではなく、業界でこういうことが実際に起きています。

築古で一部空室のある一棟マンションの売却査定でのことです。売主は複数社に声をかけていて、ある会社が出してきた金額は、別の会社の数字より数千万円高い。同じ建物、同じ資料を見ているのに、です。

差の正体は単純でした。高い数字を出した会社は満室想定——空室が全部埋まった前提の年間賃料を、周辺相場から高めに置いて計算していた。もう一方は現況の入居状況をベースに、空室が埋まるまでの期間と、築年数から見て近いうちに必要になる修繕費を引いて出していました。収益物件の価格は年間賃料収入を利回りで割って算出するので、分子である想定賃料が仮に1割上振れるとすると、価格も1割動く計算です。総額が大きい一棟物件なら、それだけで数千万円です。

売主は高いほうの査定を出した会社と専任媒介を結びました。その後どうなったか。数か月動かず、価格改定を経て、当初の高い査定額を大きく下回る金額で成約しました。

正直に出すと媒介が取れない。この構造が業界の歪みです。空室リスクと修繕費を正直に引いた数字は、売主の目には「安く買い叩こうとしている会社」に見える。だから真面目に計算するほど負ける場面がある。査定額の差は、能力の差ではなく前提条件の差であり、その前提を売主に伝えるかどうかの差でもあります。

収益物件の査定書を受け取ったら、まず「これは満室想定ですか、現況ベースですか」と聞いてください。次に、空室部分に置かれている想定賃料が、周辺の実際の成約賃料と比べて高すぎないかを確認します。ポータルサイトの募集賃料は「募集」であって成約ではないので、そこから数千円下がるのが普通だという前提で見てください。

ネット査定より訪問査定が下がるのは、現地でしか分からない要因があるから

机上査定より訪問査定の金額が下がるのは、会社が数字を操作したからではなく、現地に行って初めて分かる条件が出てくるからです。机上査定は「現地を見ていない前提の概算」であり、下がること自体は正常な動きです。

戸建ての査定で、こんなことがありました。机上では周辺の成約事例から金額を算出していたのですが、現地に行くと隣地のブロック塀がこちら側に越境していて、境界標も一部見当たらない。測量と越境の覚書が必要だと判断して、査定額を下げて説明しました。売主は「ネットで見た査定額と違う」と戸惑っていましたが、理由を説明したら納得してもらえました。

現地で下がりやすい代表例を挙げておきます。境界標の欠損、越境(塀・樹木・配管)、再建築ができるかどうか、接道条件、擁壁の状態。このあたりは図面と登記情報だけでは判断できません。

訪問査定の前に、自分で確認できることが3つあります。まず、敷地の四隅に境界標(金属プレートや杭)があるか見に行くこと。次に、隣地との間に越境物がないか目視すること。最後に、手元に測量図があるかを探すこと。購入時の資料一式の中に入っていることが多いです。

測量が必要になると費用と期間が追加でかかり、売却スケジュール全体が後ろにずれます。数十万円単位の出費と、数か月の期間が乗る可能性がある話なので、早めに把握しておくほど選択肢が残ります。

「まず預かってこい」――高い査定額の裏にある営業事情と囲い込みリスク

相場より高い査定額が出てくる理由の一つは、査定額が「媒介契約を取るための入口の数字」として使われるからです。僕自身、入社2〜3年目のころに上司から「他社に取られるくらいなら高めに出して預かってこい」と言われて、都内の区分マンションで相場より300万円ほど高い数字を提示したことがあります。

その専任媒介は取れました。ただ、社内では最初から「3か月後に価格改定を提案する」前提で動いていました。実際に2か月半で値下げを提案して、売主は渋りましたが応じました。

ここで押さえてほしいのは、媒介契約の期間が原則3か月だという点です。値下げ提案のタイミングは、この3か月と連動しています。契約更新の直前に「反響はあるのですが、価格がネックで」と切り出す。売主からすると「頑張ってくれたけど市況が」という話に聞こえますが、営業側は最初からそのつもりだった、というケースが存在します。全部がそうだとは言いません。でも、そういう動き方が現実にあることは、書いておく責任があると思っています。

そしてもう一つ。高めの査定で専任媒介を取った会社には、囲い込み——自社で買主も見つけて売主・買主双方から手数料を取る「両手仲介」にするため、他社からの問い合わせに「商談中です」と答えて紹介を止める行為——のインセンティブが働きやすい構造があります。高く預かった物件ほど、他社に紹介して安く決められるより、自社で時間をかけて買主を探したくなる。売主にとっては、露出が減って売却期間が延びるだけです。

だから査定額の高さだけで選ぶと、「高く売れなかった上に、売るのにも時間がかかった」という最悪の組み合わせを引くことがあります。金額は入口の数字にすぎない、と何度でも言いたい理由がここにあります。

査定額を比較するとき、担当者に聞くべき3つの質問

査定額を比較する段階でやるべきことは、金額の順位づけではなく、担当者への3つの質問です。今週中にメールか電話でできます。

  1. 「この金額の根拠になった成約事例を3件、築年数と面積と成約時期つきで教えてください」——即答できる担当者と、資料を探しに行く担当者と、募集事例(売り出し中の価格)を持ってくる担当者に分かれます。募集価格と成約価格は別物です。ここで力量がほぼ分かります。
  2. 「他社さんは○○万円という金額でした。差が出る理由をどう見ますか」——他社を貶すだけの人か、想定条件の違いを構造的に説明できる人かが分かります。収益物件なら満室想定か現況かを、居住用なら参照事例の違いを説明できるはずです。
  3. 「媒介契約を結んだ場合、レインズへの登録証明書はいつもらえますか」——レインズは不動産会社間の物件情報ネットワークです。専任・専属専任媒介では登録義務があり、登録すると証明書が発行されるとされています。この質問をした時点で「囲い込みを知っている売主」だと伝わるので、抑止としても効きます。

媒介契約の種類は、条件で分かれます。物件に競争力があり、複数社に同時に動いてもらって早く決めたいなら一般媒介。逆に、売却の進捗報告を定期的に受けたい、窓口を一本化して手間を減らしたいなら専任媒介。専属専任は自分で見つけた買主とも直接契約できなくなるので、知人への売却の可能性が少しでもあるなら避けたほうが無難です。報告義務の頻度は契約種別で異なるため、契約書の該当条項をその場で読み上げてもらってください。

なお、査定額の比較そのものは、2〜3社に依頼すれば十分です。極端に高い数字と極端に低い数字を除いた真ん中あたりが、実勢に近いことが多い。まだ1社にしか聞いていない、あるいはどこに声をかけるか決まっていない段階なら、複数社の査定を横並びで取れる仕組みを使うのが手間としては合理的です。1社ずつ電話をかけて同じ説明を繰り返すのは、単純に時間の無駄なので。

「売れない」と言われた物件でも

借地権、再建築不可、老朽化した空き家。一般の仲介で断られた物件を専門に買い取る会社があります。相談も査定も無料です。

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金額の順位より、数字の作り方を見る

査定額が会社で違うのは、参照事例、査定マニュアル、現地確認の有無、そして媒介を取りたい営業事情——この4つが混ざっているからです。最初の3つは技術的な差、最後の1つは意図的な差です。売主が見分けるべきなのは4つ目です。

今日か今週、できることを2つ挙げます。ひとつは、手元にある査定書を開いて「参照した成約事例」の欄を探すこと。載っていなければ担当者にメールで聞く。載っていても、それが募集価格なのか成約価格なのかを確認する。収益物件なら満室想定か現況ベースかも一緒に。

もうひとつは、媒介契約を結ぶ日に「登録証明書は契約書と一緒にください」と先に伝えておくこと。あとから請求するより、はるかに角が立たずに済みます。

売却は、査定の時点で結果の半分が決まります。数字の大きさではなく、その数字がどう作られたかを見る。それだけで、避けられる遠回りがかなりあります。なお、売却益が出た場合の譲渡所得税や、相続した不動産を売る場合の取得費の扱いは個別事情で大きく変わるので、金額が見えてきた段階で税理士に相談してください。査定と並行して動いておくと、判断がぶれません。

よくある質問

Q. 一番高い査定額を出した会社に頼んでも大丈夫ですか?

金額の高さだけで決めるのは危険です。高い査定額は媒介契約を取るための入口の数字として使われることがあり、契約から2〜3か月後に価格改定を提案される流れが実際にあります。高い査定を出した会社に依頼する場合は、その金額の根拠となる成約事例を必ず確認し、売れなかった場合にいつ・どういう基準で価格を見直すのかを契約前に聞いておいてください。

Q. 査定額と実際に売れる価格は、どれくらいずれますか?

ずれ幅は物件と市況で変わるため一律には言えませんが、査定額はあくまで予想価格であり、成約価格と一致するとは限りません。ずれを小さくしたいなら、査定額の根拠に使われた事例が「募集価格」ではなく「成約価格」かどうかを確認するのが有効です。募集価格ベースの査定は、実勢より高く出やすくなります。

Q. 机上査定と訪問査定、どちらの金額を信じればいいですか?

訪問査定の金額のほうが実勢に近くなります。机上査定は現地を見ていない前提の概算で、境界標の欠損、越境、接道条件、擁壁の状態といった現地でしか分からない要因が反映されていません。一括査定サイトで出た金額より訪問査定が下がるのは正常な動きで、下がった理由を具体的に説明できる担当者のほうが信頼できます。



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