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契約不適合責任、売主のリスクは免責特約だけで消えない

契約不適合責任、売主のリスクは免責特約だけで消えない

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引渡しが終わって数週間、買主から「床下が濡れている」と連絡が来る。売った側としては一番聞きたくない電話です。しかも契約書には免責の特約を入れたはずなのに、買主側の代理人からは「その特約は効きません」と返ってくる。たとえば修補費用として100万円を請求されたとすると、もう売却益の計算がまるごと崩れます。

売主が負う契約不適合責任は、特約を一行入れれば消えるものではありません。消えない条件がはっきり決まっていて、しかもその条件に引っかかりやすい売主には共通の事情があります。僕が仲介の現場にいたとき、その事情を作り出していたのは売主本人ではなく、むしろ売る側の会社でした。

契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いをまず押さえる

契約不適合責任とは、引き渡したものが契約の内容に合っていなかった場合に売主が負う責任で、買主は追完請求(修補など)・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の4つを使えます。民法改正により、それまでの瑕疵担保責任から名称と中身が入れ替わりました。

違いの核心は、判断の基準が「隠れた欠陥かどうか」から「契約書に書いてある内容と合っているか」に移った点です。旧制度では買主が気づけなかった欠陥しか対象になりませんでしたが、今は契約書・告知書に書かれていない不具合は、見えていたかどうかに関係なく「不適合」になり得ます。だから売主の防御線は、特約よりも先に「何を書面に書いたか」に移っているわけです。

免責特約をつけても「知っていて黙っていた」は通用しない

売主が個人の場合、契約不適合責任を全部免責する特約も、期間を短くする特約も、原則として自由に結べます。実務では引渡しから3か月程度に期間を短縮する特約が一般的で、築古の戸建てなら全部免責で売買されることも珍しくありません。

ただし、ここに穴があります。民法572条により、売主が不適合を知っていながら買主に告げなかった場合、その免責特約は効力を持ちません。雨漏りを知っていて黙っていた、給湯器が壊れているのを分かっていて「問題なし」と告知書に書いた。この手のケースでは、契約書の特約がそのまま無効になります。特約は「知らなかった不具合」を守る盾であって、「知っていて隠した不具合」には一切効かないと理解してください。

売主が宅建業者の場合は話が別です。宅建業法40条により、引渡しから2年以上とする特約以外で買主に不利な定めは無効とされ、全部免責の特約も当然効きません。買取業者に売るときに「免責でお願いします」と言われたら、立場が逆(業者が売主ではなく買主)なので成立しますが、業者から買う側になったときは守られている、という非対称があります。

期間の数え方も押さえておく価値があります。買主は、不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完請求も減額請求も損害賠償も解除もできなくなります(民法566条)。これとは別に消滅時効が走っていて、引渡しから10年、または買主が不適合を知った時から5年のいずれか早い方で権利は消えます。つまり、特約で3か月に縮めていない限り、売主は引渡し後もそれなりに長い射程で責任を負い続ける構造です。

僕が現場で引っかかっていたのは、この説明が契約の場で十分にされないことでした。重要事項説明は買主に向けたものなので、売主側は特約条項の読み合わせで数十秒触れて終わる。売主からすると「免責と書いてあるから大丈夫」で止まります。契約書の文言がどこまで自分を守るのか、重要事項説明のチェックポイント|契約前に読む時間を作る方法も合わせて、署名前に時間を取って確認しておきたいところです。

高すぎる査定が「売り急ぎ」を生み、契約不適合責任のリスクを膨らませる

契約不適合責任のリスクが膨らむ最大の引き金は、法律論ではなく「売主が焦っている状態」です。焦った売主は、告知書を丁寧に書く時間も、建物状況調査を入れる判断も飛ばします。そしてその焦りは、売り出しの入口でほぼ決まっています。

入社2〜3年目の頃、上司から「他社に取られるくらいなら高めに出して預かれ」と言われたことがあります。都内の区分マンションで、相場より300万円ほど高い数字を提示して専任媒介をもらいました。社内では最初から、3か月後に価格改定を提案する前提で動いています。実際、2か月半で値下げを提案し、売主は渋りながら応じました。

これは僕個人の暴走ではなく、流れとして定着していたものです。媒介契約は3か月更新で、1回の契約期間で1回は価格改定を提案するのが当たり前。反響数と内見数の資料を用意して、数字を根拠に説得します。売主には「相場が落ちています」と説明されますが、本当の原因が入口の査定額にあるケースは普通にありました。

問題は、この2か月半で売主の心理がどう変わるかです。最初は「この価格で売れる」と思っていた人が、内見ゼロの報告を受け続け、値下げを飲まされ、さらに1か月売れ残る。そこへやっと買付が入ったとき、売主は何を考えるか。「この話をまとめるために、余計なことは言わないでおこう」という引力が働きます。

給湯器の調子が少し悪い、過去に小さな雨染みが出たことがある、隣との境界が曖昧かもしれない。売り急いでいる売主ほど、この手の情報を告知書に書くのをためらいます。インスペクションを提案されても「それで時間がかかるなら要らない」となる。ところが民法572条は、まさにこの「知っていて書かなかった」を狙い撃ちにする条文です。高すぎる査定で始まった売却は、終盤で契約不適合責任のリスクが最大化するというのが、僕が見てきた構造でした。

だから査定の段階で、その金額の根拠を聞いておくことに意味があります。詳しくは不動産査定が高い理由、疑うべきサインと確認方法と不動産の値下げ提案タイミング、応じる前に見る数字にまとめていますが、要は媒介契約の3か月サイクルと値下げのタイミングは連動していると知っているだけで、終盤の焦り方がまるで違ってきます。

リスクを下げる具体策:告知書の書き方とインスペクション・既存住宅瑕疵保険

売主がリスクを下げる手段は大きく3つで、優先順位は①告知書・付帯設備表の書き込み、②建物状況調査(インスペクション)、③既存住宅売買瑕疵保険の順です。①はコストゼロで効果が最も大きく、③はお金で備えを買う手段になります。

告知書(物件状況等報告書)は、売主が知っている不具合を書面で申告する書類です。ここで迷ったら「書く」で統一してください。書いたことによって買主が値引きを言ってくる可能性はありますが、書かなかったことで免責特約ごと吹き飛ぶリスクの方が、金額の桁が大きくなりがちです。雨漏り・シロアリ・給排水の不具合・傾きや軋み・近隣との申し合わせ・過去の修繕履歴あたりは、記憶にある限り具体的に。付帯設備表も同じで、残す設備は「動作保証なし」と明記するか、撤去してから引き渡す方が後腐れがありません。

建物状況調査は、建築士の資格を持つ調査員が構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防ぐ部分を目視中心で確認するものです。売主にとっての価値は、買主の安心材料になることに加えて、「知っていたのに隠した」と後から主張されにくくなる点にあります。調査結果を買主に開示した上で契約していれば、その範囲は争点から外れやすい。

既存住宅売買瑕疵保険は、引渡し後に見つかった一定の不具合について保険金で修補費用をカバーする仕組みです。加入には検査に通る必要があり、物件の状態や築年数によっては使えません。費用も物件と事業者で変わるため、ここは必ず見積もりを取って判断してください。免責特約が「責任を負わない」ための備えなのに対し、保険は「責任を負っても出費を抑える」ための備えで、役割が違います。

どちらを選ぶかの分岐はシンプルです。築年数が浅く建物の状態に自信があるならインスペクション+保険、築古で現況有姿・解体前提に近いなら全部免責の特約で価格に反映させる。中間のケースでは、調査だけ入れて結果を開示し、特約は3か月に短縮する形が収まりやすいと僕は見ています。

そして、この判断の前提になるのが「そもそもいくらで売れる物件なのか」の確からしさです。入口の査定額が現実から離れていると、ここまで書いた焦りの構造にそのまま乗ってしまう。複数社の数字を並べて根拠を比べるところから始めるのが、遠回りに見えて一番効きます。

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引渡し後にクレームが来たら、売主がまずすべきこと

引渡し後にクレームが来たら、まず「修理します」とも「特約があるので応じません」とも即答しないでください。順番としては、最初に契約書と告知書の控えを手元に揃え、次に買主からの連絡内容と日付を記録し、最後に弁護士など専門家に特約の有効性を確認する、という流れになります。

確認すべき点は3つに絞れます。契約書の特約条項が免責なのか期間短縮なのか(短縮なら引渡日から何か月か)、その不具合を自分が契約前に知っていたと言える材料があるか、買主がいつ不具合を知ったと主張しているか。この3つで、民法566条の1年通知や消滅時効の起算点がどこに来るかが変わります。

自己判断が危ないのは、特約の有効性が条文だけで決まらないからです。同じ文言でも、告知書の記載内容や契約時のやり取り次第で効き方が変わります。売買契約の紛争は金額が大きくなりやすいので、自分の記憶で「大丈夫なはず」と結論を出す前に、契約書一式を持って弁護士・司法書士に有効性を確認してください。税金が絡む局面があれば税理士も含め、専門家に判断を仰ぐのが結局いちばん安く済みます。

今日できることは、紙を2枚出して読み直すこと

売却前の人がこれから24時間以内にできることは2つです。ひとつ、告知書と付帯設備表の控えを引っ張り出して、書き漏らしている不具合がないか読み直すこと。記憶にある限りの不具合を追記できるのは、契約前までです。ふたつ、媒介契約を結ぶ前後の段階なら、仲介会社に「この物件はどういう特約で売る想定か、免責か期間短縮か、何か月か」を口頭ではなく書面で確認すること。この質問に即答できない担当者なら、その時点で一段警戒していいと思います。

媒介契約の直後は、確認しておくべきものがもうひとつあります。レインズの登録証明書です。僕の在籍時、聞かれなければ説明しない営業がいました。IDとパスワードで売主自身が掲載状況を確認できること自体を知らない売主が大半で、僕は渡していましたが社内の統一ルールではありませんでした。媒介契約を結んだら、その場で登録証明書の有無を確認する。売却が計画どおり進んでいるかを自分の目で見られる状態にしておくと、終盤で焦って告知を省く展開に転びにくくなります。見方はレインズ登録証明書の見方|隠れた項目と請求の仕方に、売却時に揃える書類は不動産売却の必要書類一覧、権利証紛失時の対処までにまとめています。

よくある質問

Q. 契約不適合責任を全部免責にする特約を入れれば、売主は何も責任を負わなくて済みますか?

いいえ。売主が個人なら全部免責の特約自体は原則有効ですが、民法572条により、売主が不具合を知っていながら買主に告げなかった場合はその特約が効力を失います。売主が宅建業者の場合は、宅建業法40条で引渡しから2年以上とする特約以外は無効になるため、全部免責は成立しません。

Q. 引渡しから何年経てば、売主は契約不適合責任から解放されますか?

特約で期間を短縮していない場合、買主は不適合を知った時から1年以内に通知する必要があり(民法566条)、消滅時効は引渡しから10年または買主が不適合を知った時から5年です。個人間売買では引渡しから3か月程度に短縮する特約が一般的なので、まず自分の契約書の条項を確認してください。

Q. 古い家なので不具合が多く、どこまで告知書に書くべきか分かりません。

迷ったら書く、が実務的な基準です。書いたことで値引き交渉される可能性より、書かなかったことで免責特約が無効になり修補費用や損害賠償を負うリスクの方が金額の振れ幅が大きくなります。不具合が多い築古物件なら、建物状況調査を入れて結果を開示したうえで、価格に状態を反映させる売り方の方が後々もめにくくなります。

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