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不動産会社に査定を頼むのが最初の一歩だと思われがちですが、実際には査定を頼む前にやっておくことが3つか4つあります。そこを飛ばすと、出てきた査定額が高いのか安いのか自分では判断できません。仮に「3,000万円でいけます」と言われたとして、それが妥当かどうかを判断する材料を持っていないと、結局は営業マンの言い値で走ることになります。
査定は「会社の意思」が入る数字で、純粋な相場の写しではありません。僕はここが売却の分かれ目だと考えています。売主が事前に相場と自分の書類状況を把握しているかどうかで、その後の交渉の質がまるごと変わります。
この記事では、査定を依頼する前にやるべき準備だけに絞って書きます。
家を売る前にまずやるべきは、自分で相場を調べること
家を売る前に最初にやることは、自分の家の周辺で実際にいくらで成約したかを自分で調べることです。使うのは「レインズマーケットインフォメーション」。国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営しているサイトで、直近1年間の売買価格情報や地域別の平米単価が誰でも無料で見られます。
ポイントは、ここに載っているのが売り出し価格ではなく成約価格だという点です。ポータルサイトに並んでいる価格は「この値段で売りたい」という希望額で、実際に決まった金額とは別物です。
調べ方は単純で、まず自分の家の所在地の都道府県と地域を選び、次にマンションか戸建てかを選び、最後に専有面積や築年数が近い成約事例を数件ピックアップします。マンションなら平米単価まで出るので、自分の家の面積を掛ければ大まかな水準が出ます。戸建ては土地の形状や接道で振れ幅が大きいので、単価より「このエリアでこの規模の家がいくらで決まっているか」というレンジの把握に使います。
このレンジを持たずに複数社の査定を受けると、一番高い数字を出した会社が一番良い会社に見えてしまう。これが売主が最初につまずくポイントです。査定額が会社ごとに割れる理由については不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由で構造から書いています。
書類集めは今日から始める—権利証と建築確認済証の場所を確認
売却で必要になる書類のうち、今すぐ「あるかないか」を確認すべきなのは権利証(登記識別情報通知)と建築確認済証・検査済証です。この2つは、無いと分かってから代替手段を用意するまでに時間がかかる種類の書類です。
権利証は、登記手続きのオンライン化に伴う法改正を境に形が変わっています。それ以前に取得した不動産なら「登記済証」という紙の権利証、以降なら「登記識別情報通知」という12桁の英数字が目隠しシールの下に印字された書面です。登記識別情報は再発行されません。紛失していると、決済のときに司法書士による本人確認情報の作成などの代替手続きが必要になり、別途費用がかかります。まずは自宅の金庫や購入時にもらったファイルを開けて、現物があるか確認してください。
建築確認済証と検査済証は、戸建て売却で差が出る書類です。建築確認済証は、建物を建てる前に、その設計が建築基準法などの法令に適合していることを証明する書類。検査済証は、建物が完成した後に、実際に確認申請どおり建てられているかの検査を通ったことを証明する書類です。前者は「設計の合格証」、後者は「完成品の合格証」で、役割がまったく違います。
この2つが揃っていると、買主側の住宅ローン審査や再建築の判断がスムーズになります。逆に検査済証が無い戸建ては、買主の金融機関によっては融資が通りにくくなり、結果として売れる価格帯や買える客層が狭まります。無い場合は、市区町村の建築指導課で「台帳記載事項証明書」を取得できることがあるので、査定を頼む前に窓口で確認しておくと動きが早くなります。
あとは固定資産税の納税通知書。毎年4〜6月ごろに届くあの封筒です。土地と建物の評価額、固定資産税の年額、課税地目などが載っていて、査定でも税金の精算でも使います。捨てていないか確認してください。本人確認書類と印鑑証明書は決済が近づいてから用意すれば間に合います。
住宅ローンが残っている家は、残債の確認なしに売れない
住宅ローンが残っている家には抵当権が付いていて、抵当権を抹消しない限り買主に引き渡すことができません。抵当権は返済が滞ったときに金融機関がこの家を差し押さえる権利で、これが付いたままの家を買う人はいません。だから売却代金でローンを完済し、決済の日に抵当権抹消登記と所有権移転登記を同時に行う、という段取りになります。
つまり、残債より安く売ると差額を自己資金で埋めなければ引き渡せないという制約が最初から乗っています。だから残債額の確認は、査定より先です。
確認方法は、まず毎年送られてくる返済予定表(償還予定表)を見る。次に、ネットバンキングの残高照会でも直近の残高が出ます。より正確に知りたいなら、金融機関に「売却を検討しているので、○月末時点の残高証明が欲しい」と連絡すれば出してもらえます。
残債が売却見込み額を上回りそうなときは、その時点で金融機関に相談してください。差額を自己資金で埋められないなら、任意売却や住み替えローンといった選択肢の検討が必要になり、これは金融機関の同意が前提です。不動産会社に相談する前に金融機関に当たっておくと、取れる手が早く見えます。
査定額はまだ手取り額じゃない—経費と税金を引いて考える
査定額は手取り額ではありません。手取り額は「売却価格 − ローン残債 − 売却費用 − 税金」で、この4つを引き算した数字が実際に自分の口座に残る金額です。ここを試算しないまま話を進めると、住み替えの頭金が足りないことに契約後に気づく、という順序になります。
売却費用の中心は仲介手数料です。仲介手数料は宅地建物取引業法で上限が定められていて、上限である以上は理屈上は交渉可能ですが、実務では上限額で提示されるのが通常です。自分のケースでいくらになるかは、依頼を検討している不動産会社に上限額の計算を出してもらってください。ほかに、抵当権抹消の登記費用、売買契約書に貼る印紙代、必要に応じて測量費や解体費、ハウスクリーニング費などが乗ります。
たとえば売却価格を3,000万円、ローン残債を1,500万円だと仮定して並べてみます。仲介手数料を仮に100万円、登記費用や印紙代などの諸費用を仮に20万円とすると、3,000万円 − 1,500万円 − 100万円 − 20万円 = 約1,380万円。ここからさらに税金を考えます。
税金は譲渡所得、つまり「売却価格 −(取得費+譲渡費用)」がプラスになったときにかかります。取得費は買ったときの価格から建物の減価償却分を引いた額で、購入時の売買契約書と諸費用の領収書が残っているかで税額が変わります。契約書が無いと取得費が低く見積もられ、税負担が増えることがあります。具体的な計算方法は税理士に確認してください。税率は所有期間によって変わる仕組みで、マイホームの売却については税負担を軽くする特例が設けられています。どの特例が使えて税額がいくらになるかは、必ず税理士に確認してください。
まずは自分で「売却価格 − 残債 − 仲介手数料 − 諸費用」までを紙に書いてみる。ここまでやると、査定額を聞いたときに「で、手元にいくら残るんですか」と即座に返せるようになります。この一言を言える売主と言えない売主で、営業側の対応は確実に変わります。
相続・共有名義の家は、書類が普通に揃わないと思っておく
相続した家や共有名義の家は、売る前に登記を整える作業が必ず1段挟まります。売主として登記簿に載っていない人は、その家を売ることができません。ここを知らずに査定から入ると、契約直前で止まります。
典型的な引っかかりを挙げると、相続登記が未了で名義が亡くなった親のまま、というケース。この場合、遺産分割協議書、相続人全員の戸籍と印鑑証明、被相続人の出生から死亡までの戸籍など、揃えるのに数週間から数カ月かかる書類群が必要になります。相続登記は義務化されているので、放置している人は売る売らないにかかわらず手をつけてください。
共有名義なら、売却には共有者全員の同意と実印が必要です。兄弟3人の共有で1人が海外にいる、連絡が取れない、意見が合わない——こうなると売却そのものが止まります。査定を頼む前に、共有者の意思を確認しておく。これが実質的な第一手です。
ほかに、結婚や引っ越しで登記上の住所・氏名が現状と違う場合は変更登記が必要ですし、境界が確定していない土地は隣地立会いのうえでの測量、確認申請を出していない増築部分がある建物は現況との不一致の説明が必要になります。いずれも数週間から数カ月かかる作業なので、売却の意思が固まる前から着手して損はない領域です。登記や相続の具体的な手続きは司法書士・弁護士の領分なので、該当しそうなら早めに相談してください。
税制面では、相続した空き家を売るときの特例(いわゆる空き家特例)があります。対象になる家屋の要件のひとつが昭和56年5月31日以前に建築されたもので、ほかにも被相続人が一人で居住していたこと、売却までの使用状況など複数の条件が付きます。適用の可否は個別判断になるので、税理士に確認してください。実家の売却でどこに相談すべきか迷っているなら、空き家売却の相談はどこにすべき?窓口選びと順番を解説に窓口の順番を整理しています。
売却の全体スケジュールと、売れやすい時期の目安
売却期間の平均は、マンションで3カ月、戸建てで6カ月程度が目安です。これは媒介契約を結んで売り出してから引き渡しまでの期間で、準備期間は含みません。書類集めや相続登記が必要なケースは、さらに手前に1〜3カ月が乗ります。
売れやすい時期は、新学期・新年度前の1〜3月。転勤と入学のタイミングで動く買主が集まる時期なので、逆算すると年末には売り出しの準備を終えておきたい。築年数の目安としては、木造住宅の法定耐用年数が22年で、これを超えると建物の評価は下がる傾向にあるため、築25年以内が売りやすいラインとして語られます。ただし立地とリフォーム状況で大きく変わるので、築年数だけで諦める話ではありません。
今週やることは、この3つに絞っていい
まず、レインズマーケットインフォメーションで自分の家の周辺の成約事例を5件メモする。次に、権利証(登記識別情報通知)と建築確認済証・検査済証が手元にあるかを確認する。最後に、返済予定表かネットバンキングでローン残高を確認する。ここまでが査定前の準備で、この3つを済ませてから査定を頼むかどうかは、最終的な売却額に直接効きます。
そして査定を受けるときに1つだけ質問を用意してください。「その査定額の根拠になった成約事例を3件見せてください」。自分で調べた成約事例と照らして噛み合わない査定は、そこで疑ってかかっていい。
売り出し後の話——媒介契約の選び方や、なぜ営業が専任を勧めるのかについては媒介契約3種類の違いと選び方、営業が専任を勧める理由を、全体の手順を一気に把握したいなら家を売る流れ全手順|8ステップと後悔しない媒介契約の選び方を読んでください。
Q. 家を売る前にリフォームやハウスクリーニングはしたほうがいいですか?
自己判断で高額なリフォームや解体をするのは避けてください。かけた費用が売却価格に上乗せされるとは限らず、買主が自分の好みで直したいと考えるケースも多いためです。一方で、玄関・リビング・水回りの片付けと簡易清掃は、費用がほぼかからず内覧の印象に直結するので、やる価値があります。大規模な工事は、査定を受けたあとに複数社の意見を聞いてから判断するのが順序です。
Q. ローン残債が売却価格を上回りそうです。売るのを諦めるべきですか?
すぐに諦める必要はありませんが、不動産会社より先に借入先の金融機関へ相談してください。差額を自己資金で埋めるほか、住み替えなら住み替えローン、返済が困難なら任意売却といった選択肢がありますが、いずれも金融機関の同意が前提になります。まず正確な残高証明を取り、そのうえで相談するのが早い順序です。
Q. 査定は何社に頼めばいいですか?1社では駄目ですか?
複数社に依頼したほうが安全です。査定額は会社の販売方針や在庫状況によって振れるため、1社だけでは出てきた数字が相場のどこにあるか判断できません。ただし社数を増やすほど営業連絡も増えます。自分で成約事例を調べたうえで3社前後に絞り、査定の根拠として提示された成約事例を比べるのが実務的です。



