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売却を任せた不動産会社から、最近やけに連絡が減っていないでしょうか。内覧の予約も月に1件あるかないか、担当者に聞けば「今は反響が落ち着く時期でして」と返ってくる。その状況で「囲い込み」という言葉に行き当たって、この記事にたどり着いた人が多いはずです。
先に言っておくと、囲い込みは売主の側から確認できます。しかもその手段は、媒介契約を結んだ時点で本来あなたの手元にあるものです。ただ、それを知らないまま数ヶ月を溶かしてしまう売主が本当に多い。仮に3,000万円で売れる物件だとして、機会損失は数十万円の話では済みません。
「商談中です」は本当か―2週間消えなかった物件の話
不動産会社が他社に対して使う「商談中です」という一言は、口頭で言えてしまうため、外部からは真偽を確認できません。僕自身、買主側の客付けで動いていたときに、その現場に当たったことがあります。
レインズ(不動産会社だけが見られる物件情報の共有システム)で条件に合う物件を見つけて、元付けの会社に物確(物件確認)の電話を入れました。返ってきたのは「その物件は商談中です」という即答。営業マンとしては、じゃあ次を探すか、と切り替えるしかない場面です。
ところが2週間後、同じ物件がポータルサイトに掲載され続けていました。
商談中の物件を広告に出し続けるのは、それ自体が不自然です。念のためもう一度電話をかけましたが、回答は同じ。「商談中です」。結局その物件は、僕の顧客に紹介できないまま終わりました。
ここで一番怖いのは、売主が何も気づけないことです。売主から見えるのは「今月も内覧がありませんでした」という担当者の報告だけ。他社が買主を連れてきていたことも、その打診が電話一本で断られていたことも、売主には一切伝わりません。
なぜ囲い込みは起きるのか―両手率という評価制度の裏側
囲い込みは、担当者個人の悪意というより、会社の評価制度から生まれている構造的な問題です。僕がコスモスイニシアに在籍していたとき、支店単位で追う数字のひとつに「両手比率」が入っていました。
両手というのは、売主と買主の両方から仲介手数料をもらう形のことです。売主だけから受け取る片手仲介と比べると、会社に入る手数料は単純に2倍になります。同じ1件の成約でも、他社が買主を連れてきた片手案件は、個人の評価上の重みが軽い。数字としては成約なのに、社内での見え方が違うわけです。
この設計だと何が起きるか。営業には「自社で買主を見つけるまで粘る」動機が働きます。他社から物確の電話が来たときに、正直に「まだ動けます」と答えるほど、自分の評価が下がる可能性がある。仮に売買価格3,000万円の物件だとすると、片手と両手では会社に入る手数料が100万円前後違ってくる計算になります(手数料率は取引額で変わるため、あくまで規模感の話です)。この差を、支店の目標数字として毎月突きつけられる。
だから僕は、囲い込みを「悪い営業マンがやること」だとは思っていません。真面目で数字に忠実な営業ほど、制度に沿って動いた結果としてグレーな判断に近づいてしまう。ここを理解しておかないと、担当者を個人的に責めることに時間を使ってしまいます。責めても構造は変わりません。変わるのは、あなたが売主として何を確認するか、という一点だけです。
もちろん、すべての会社がそうだとは言いません。両手を狙わず、他社からの問い合わせに素直に対応する会社も現実にあります。ただ、売主の側からは外見で見分けがつかない。だから確認手段を持つ必要があります。
登録証明書は「もらうもの」じゃなく「自分で見るもの」
レインズ登録証明書とは、媒介契約を結んだ物件をレインズに登録した証拠として発行される書面で、売主本人がログインするためのIDとパスワードが記載されています。専任媒介・専属専任媒介では不動産会社にレインズへの登録義務があり、登録すればこの証明書が出ます。
ここが本題なのですが、この証明書のIDとパスワードを使うと、売主自身がレインズの画面にアクセスして、自分の物件がどう登録されているかを確認できます。物件情報が正しく載っているか。そして「取引状況」の欄が何になっているか。
取引状況の欄には、公開中・書面による購入申込あり・売主都合により一時紹介停止中といった区分が表示されます。売主が誰とも商談していないのに「一時紹介停止中」になっていたら、それは他社に紹介されない状態です。これが、外から見えない「商談中です」を、売主の側から検証できる唯一に近い手段になります。
ところが在籍時、この登録証明書を売主に渡さない、あるいは渡しても中身を説明しない営業がいました。聞かれなければ触れない。IDとパスワードで売主自身がステータスを確認できるという事実を知らないまま売却を終える売主が、体感では大半だったと思います。僕は渡していましたが、それは社内で統一されたルールだったわけではなく、個人の判断でした。
つまり、登録証明書は「向こうがくれるもの」ではなく「自分で取りに行って、自分で中を見るもの」です。媒介契約を結んだその場で、証明書の有無とログイン方法を確認してください。もう契約済みで受け取っていないなら、今から請求して構いません。
今週できる、囲い込みの確認手順
囲い込みの確認は、媒介契約書の種類を見る、レインズにログインして取引状況を見る、他社に物確を頼む、の3ステップで進めます。どれも今週中にできます。
まず、手元の媒介契約書を出してください。見るのは契約の種類です。一般媒介なら複数社に同時に依頼できているので、囲い込みのリスク自体が構造的に低い。専任媒介・専属専任媒介なら、その1社に情報が集中している状態なので、以下の確認をする価値があります。契約日と有効期間(専任・専属専任は最長3ヶ月)も同時にメモしておいてください。後の判断で使います。
次に、レインズ登録証明書を探します。あれば記載のIDとパスワードでレインズの売主用画面にログインし、取引状況の欄を見る。あなたが誰とも商談していないのに「一時紹介停止中」や「書面による購入申込あり」になっていたら、その場で担当者に理由を聞く根拠になります。証明書が見当たらなければ、担当者に「登録証明書をもらっていないので送ってください」と連絡する。専任・専属専任で登録義務があるのに登録していない、という事態がここで発覚することもあります。
最後に、もう一段踏み込むなら、知人や別の不動産会社に頼んで、あなたの物件について物確の電話を入れてもらう方法があります。「レインズで見たこの物件、紹介できますか」と聞いてもらうだけです。「商談中です」と返ってきたのに、あなたには何の報告も来ていないなら、それが答えです。少し手間はかかりますが、これが一番はっきりします。
3つとも確認して、どうも自分の会社は情報を外に流していないらしい、と感じたなら、次に必要なのは比較対象です。他社が同じ物件をどう評価し、どう売るつもりなのかを聞いてみないと、今の担当者の説明が妥当なのか判断できません。複数社の査定を並べると、価格だけでなく販売方針の差も見えてきます。
囲い込みが疑わしいとき、契約を切り替えるべきかの分岐条件
囲い込みを疑ったときの選択肢は、担当者変更、一般媒介への切り替え、契約解除の3つで、疑いの強さと契約の残り期間で選び分けます。
取引状況が正しく「公開中」で、単に反響が少ないだけなら、囲い込みではなく価格設定か広告量の問題です。この場合は契約を切るより、担当者に販売活動報告書(専任は2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上の報告義務があります)を出させて、何をやったのかを具体的に詰めるほうが早い。会社は悪くないのに担当者の動きが鈍いだけなら、支店長に担当者変更を申し出る手もあります。
取引状況の表示がおかしい、あるいは他社への物確で断られていた事実が取れたなら、その会社に売却を任せ続ける理由は薄い。専任・専属専任の有効期間は最長3ヶ月なので、更新のタイミングで更新しない、と伝えるのが一番揉めません。期間の途中でどうしても解除したい場合は、契約書の解除条項と、それまでにかかった広告費等の実費請求の扱いを確認してください。契約解除の可否や費用負担で会社側と折り合わないときは、契約書を持って弁護士など専門家に相談するのが確実です。
切り替え先については、囲い込みを避けたいなら一般媒介、それでも1社に責任を持たせたいなら別会社との専任、という分岐になります。ただ一般媒介はどの会社も「他社で決まるかもしれない」と考えるので、広告費のかけ方が慎重になる傾向がある。囲い込みリスクと販売力はトレードオフだと思っておいてください。
売主が持てる、たった一枚の切り札
囲い込みという言葉に不安を煽られる必要はありません。売主にできることは、媒介契約書の種類を確認し、レインズ登録証明書を手元に置き、取引状況を自分の目で見る。この3つだけです。今週やるなら、まず契約書のファイルを開いて、登録証明書が挟まっているかを探すところから。なければ担当者に一本メールを送る。それで終わりです。
そして、複数社に話を聞くと囲い込み以外のことも見えてきます。同じ物件なのに査定額が会社ごとに数百万円違うのはなぜか、という話は不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由で書いたので、査定書を並べる前に読んでおくと騙されにくくなります。
制度が変わらない限り、囲い込みは規制だけでは無くなりません。だからこそ、確認手段を知っている売主とそうでない売主で、売却結果に差がつきます。
よくある質問
Q. レインズ登録証明書をくれと言ったら、担当者に嫌がられませんか?
嫌がる担当者もいますが、専任媒介・専属専任媒介ではレインズへの登録が義務なので、登録証明書の提示を求めるのは売主の正当な要求です。渋られたり、はぐらかされたりした時点で、その反応自体が判断材料になります。「知り合いに勧められたので一応もらっておきたい」くらいの言い方で十分伝わります。
Q. レインズの取引状況が「一時紹介停止中」になっていたら、確実に囲い込みですか?
必ずしも囲い込みとは限りません。売主都合で内覧を止めている期間や、購入申込が入って手続き中の場合にも同じ表示になります。ただし、あなた自身がそうした事情に心当たりがないのにその表示になっているなら、担当者に理由を確認すべき状態です。
Q. 囲い込みされていたと分かったら、仲介手数料は返してもらえますか?
返還されるかどうかはケースによって異なり、一律には言えません。契約解除の可否や損害賠償の請求は媒介契約書の条項と具体的な事実関係次第なので、契約書を持って弁護士など専門家に相談してください。行政窓口としては、宅建業者の免許を出している都道府県の宅建業指導担当部署への相談も選択肢になります。



