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週末に内見が入りました、と担当者から連絡が来た。喜ばしいはずなのに、頭に浮かぶのは玄関の靴と洗面所の歯ブラシと、知らない人が家に上がってくるという妙な落ち着かなさ。売主の内見前日って、だいたいそういう気分になります。
掃除の話は他所でも山ほど書かれているので、この記事ではそこは手短にします。僕が本当に書きたいのは、上位の記事がほぼ触れていない二つ、鍵の預け方とレインズの登録証明書です。とくに後者は、媒介契約を結んだ売主の大半が存在すら知らないまま売却活動が進みます。仲介の現場にいた人間として、ここは正直に書きます。
内見準備は「いつから」「何を」やればいいのか
内見準備は、媒介契約を結んだ日から始まります。掃除の話ではなく、いつ内見が入っても対応できる状態を作っておくという意味です。売り出し価格の設定が適切であれば一般的に1か月以内に最初の内覧が入るといわれますが、早ければ売り出した最初の週末に希望が入ります。連絡が来てから片付け始めると、だいたい間に合いません。
やることは大きく三つに分かれます。まず、住まいの片付けと当日の生活感の消し方。次に、その内見に自分が立ち会うのか不動産会社に任せるのかという判断。最後に、不動産会社への確認事項です。三つ目が一番軽視されていて、一番効きます。
時間軸で言うと、片付けは内見の前日までに終わればいい。立ち会うかどうかは内見の日程が決まった時点で担当者に伝える。不動産会社への確認は、内見が入る前、できれば媒介契約を結んだその場です。順番を逆にすると、鍵の扱いも売却活動の中身も、こちらが把握しないまま進んでいきます。
玄関・水回り・生活感、時間がない日はどこから片付けるか
残り時間が半日しかないなら、玄関と水回りだけやってください。この二つで内見の印象の大半が決まります。買主が最初に立つのは玄関で、そこで「靴が並んでいない家」という第一印象が確定します。次に厳しい目で見られるのが洗面所・浴室・トイレで、ここは清潔感が価格交渉の材料にされやすい場所です。
逆に、残り3日あるならリビングの「モノの量」に手をつける価値があります。掃除より効くのは、家具と荷物を減らすこと。同じ広さでも、床が見える面積が増えるだけで体感の広さが変わります。使っていない家具を処分するか、レンタル倉庫に一時的に逃がすか。これは掃除ではなく引っ越しの前倒しなので、時間がかかる代わりに効果も大きい。
当日だけの小技としては、水回りに置いている洗剤とスポンジと掃除道具を、その日だけシンク下に隠す。洗濯機の中に洗濯物を残さない。ゴミ箱を空にする。生活の名残りは、汚れよりも先に目に入ります。
ハウスクリーニングを入れるかどうかの判断は、「自力で落ちない汚れがあるかどうか」だけで決めていいと僕は考えています。散らかっているだけなら自分で片付けたほうが早いし安い。一方で、水回りの水垢やカビ、経年でくすんだ床のように、家庭用洗剤では戻らない汚れがある場合は、そこだけスポット依頼する価値があります。全室まとめて頼むと金額が跳ねるので、部位を絞るのが現実的です。費用は業者と地域と部位で大きく変わるので、2社ほど見積もりを取って比べてください。
それから、意外と抜けるのが匂いです。自分の家の匂いには気づけません。玄関を開けた瞬間の空気は、内見前に窓を開けて入れ替えておくだけで変わります。芳香剤を強く焚くのは逆効果で、「何か隠している」と受け取られることがあります。
内見に立ち会うべき売主、任せたほうがいい売主の分岐条件
結論から書くと、押しに弱い人・話し好きな人は立ち会わないほうがいいです。逆に、この家の暮らしを具体的に語れる人は立ち会ったほうがいい。メリットとデメリットの並列では判断できないので、条件で切ります。
立ち会ったほうがいいのは、まず一戸建てや築年数のある物件で、設備の使い方や修繕の履歴を説明できる場合。給湯器を何年前に替えた、外壁をいつ塗った、この部屋は夏でも風が抜ける。こういう情報は担当者が持っていないことが多く、買主の不安を消す力があります。次に、近隣環境の良さが売りの物件。スーパーの品揃え、小学校までの道の安全さ、ゴミ出しのルール。これは住んでいる人しか語れません。
任せたほうがいいのは、その場で価格の話を振られると答えてしまいそうな人。買主は悪気なく「もう少し安くなりませんか」と聞いてきます。ここで「相談できなくもないです」と一言漏らすと、その瞬間から値引き交渉の起点がそこに移ります。価格の話は全部担当者に振ると決めて、その場にいないのが一番安全です。それから、家に思い入れが強すぎて長く語ってしまうタイプ。買主は自分たちの生活を想像しに来ているので、売主の思い出話が長いと集中が切れます。
もう一つ、片付けが間に合っていない場合。立ち会えば「そこは物置なので」と動線を誘導できます。この使い方はアリです。
折衷案もあります。売主は在宅するけれど、案内は担当者に任せて自分はダイニングに座っている。質問があれば答える。これが実務では一番多い形で、僕は迷っている人にはこれを勧めます。立ち会う場合でも、売主から話しかけるのは買主が質問してきたときだけと決めておくと事故が減ります。
そして、立ち会う立ち会わないに関係なく、貴重品と現金と印鑑と通帳は当日必ず目の届かない場所へ。知らない人が家に上がるということの意味は、掃除の記事ではあまり書かれませんが、現場では前提の話です。
内見前に不動産会社へ必ず確認すべき「鍵の預け方」と「登録証明書」
内見が入る前に不動産会社へ確認すべきことは二つ、鍵をどう預けてどう返してもらうかと、レインズの登録証明書を受け取っているかです。掃除より先にこれをやってください。
まず鍵です。空室にして売る場合や、留守中に内見を入れてもらう場合、鍵を不動産会社に預けることになります。ここで確認したいのは三点。誰が保管するのか(担当者個人か、店舗の鍵管理庫か)、内見のたびに持ち出す記録が残るのか、そして他社の営業が案内するときにその鍵をどう扱うのか。キーボックスを現地に設置する方式なら、暗証番号を誰に伝えるのか、内見が終わったら番号を変えるのかまで聞いておきます。預けた日と返却の約束を、口頭ではなくメールかメッセージで残す。これだけで揉め事のほとんどは防げます。
次が本題の登録証明書です。専任媒介・専属専任媒介で契約すると、不動産会社にはレインズ(不動産会社間で物件情報を共有する仕組み)への登録義務があります。専属専任なら5日以内、専任なら7日以内(いずれも休業日を除く)。そして登録すると、売主に渡すための登録証明書が発行されます。この証明書にはIDとパスワードが記載されていて、売主自身がレインズにログインして自分の物件の掲載状況を確認できます。
ここからが業界の内側の話です。僕が在籍していた頃、この登録証明書を売主に渡さない、あるいは渡しても中身を説明しない営業がいました。聞かれなければ触れない。IDとパスワードで売主本人がステータスを確認できるという事実を、売主のほとんどが知らないまま売却活動が進んでいく。僕自身は渡していましたが、それは僕の判断であって、社内で統一されたルールではありませんでした。
なぜ渡したがらないのか。売主がレインズを見られるということは、自分の物件が本当に公開されているか、ステータスが「公開中」のままか「書面による購入申込あり」に変わっていないかを、売主が自分の目で確認できるということです。囲い込み(他社に物件を紹介させず自社で買主を見つけようとする行為)が疑われる状況では、この確認手段は非常に強い。この構造は「商談中です」の裏側―レインズ囲い込みの実態と対処法で詳しく書いています。
だから、内見準備の一環としてやってほしいのはこれです。媒介契約書のファイルを開いて、登録証明書が入っているか探す。なければ担当者に「レインズの登録証明書をください」と一言送る。すでに持っている人は、記載のIDとパスワードでログインして、自分の物件が公開中になっているか、価格や間取りの情報が正しいかを見てください。間取り図や写真の枚数が少ないまま公開されているケースは実際にあり、これは内見の入り方に直結します。
掃除を完璧にしても、そもそも他社の営業に物件が届いていなければ内見は増えません。内見準備で一番効くのは、雑巾ではなくこの確認だと僕は思っています。
内見で言ってはいけないこと、反応が薄いときの次の一手
内見中に売主が言ってはいけないのは、値引きを示唆する言葉と、事実確認をしないまま話す近隣トラブルの詳細です。前者は交渉の起点を作ってしまう。後者は逆に、伝えるべきことを伝えないほうが後で問題になります。
この線引きは慎重に扱う必要があります。雨漏りやシロアリ、過去の事件事故など、買主の判断に影響する事柄には告知義務が関わる場面があり、黙っていると契約後に責任を問われることがあります。一方で、隣人との個人的な感情のもつれをその場で長々と語るのは、告知義務の履行とは別の話です。何を、いつ、どの書面で伝えるべきかは、担当の宅建士や弁護士に事前に確認してください。内見の場で口頭で処理する話ではありません。
反応が薄いときの話もしておきます。一般的には10回以内の内見で成約に至るといわれます。裏を返すと、内見が5回、6回と重なっても申し込みが入らないなら、原因は掃除ではないということです。原因は、価格か、物件情報の見せ方か、営業活動の中身のどれかにあります。
ここで大事なのは、担当者から内見後のフィードバックをきちんと取ることです。「よかったと言っていました」で終わる報告には情報がありません。何を見て引いたのか、比較検討している物件はどこか、価格についてどう言っていたか。具体的に聞いてください。同じ理由が3件続いたら、それが本当の原因です。不動産の値下げ提案タイミング、応じる前に見る数字で書いたとおり、値下げは最後の手段であって最初の手段ではありません。
そして、内見が入らない・入っても決まらない状態が続くなら、いま組んでいる会社の価格設定と販売戦略を、外の物差しで測り直す価値があります。複数社の査定を並べると、自分の物件が市場でどう見られているかの幅が見えます。媒介契約の更新前に他社の見立てを取っておくと、続けるか変えるかを感情ではなく数字で決められます。
今週やることは、雑巾より先に二つの確認
掃除は前日でも間に合います。間に合わないのは、確認のほうです。
今日か今週中にやることを二つに絞ります。ひとつ、媒介契約書のファイルを開いてレインズの登録証明書が入っているか確認する。無ければ担当者に発行を依頼し、あればログインして掲載内容を自分の目で見る。ふたつ、担当者に鍵の保管方法と返却の約束を文面で送ってもらう。この二つは、内見が何回入ろうと売却の土台になります。
そのうえで、玄関と水回りを片付けて、当日は貴重品をしまう。立ち会うかどうかは、価格の話を振られて黙っていられるかどうかで決める。売却全体の流れをもう一度確認したい人は家を売る流れ全手順|8ステップと後悔しない媒介契約の選び方もあわせてどうぞ。
内見準備に関するよくある質問
Q. 内見のとき、売主は外出したほうがいいですか?
価格交渉を振られて即答しそうな人は外出、設備や近隣環境を具体的に説明できる人は在宅を勧めます。折衷案として、在宅はするが案内は担当者に任せ、質問が出たときだけ答える形が実務では最も多いです。どちらの場合も、貴重品と印鑑・通帳は当日必ず目の届かない場所へ移してください。
Q. レインズの登録証明書は誰がくれるものですか?もらっていないのですが。
専任媒介・専属専任媒介を結んだ場合、仲介会社がレインズへ登録した後に発行し、売主へ交付するものです。手元にない場合は担当者に「登録証明書をください」と依頼してください。記載されたIDとパスワードで売主本人がログインでき、自分の物件が公開中になっているか、情報が正しいかを確認できます。
Q. 内見が何回も入るのに決まりません。値下げするしかないですか?
値下げの前に、内見後のフィードバックの中身を確認してください。同じ指摘が3件続いているなら、それが原因です。原因が価格ではなく写真・間取り図・情報の出し方にあるケースもあるため、まずレインズ上の掲載内容と、担当者が他社にどう案内しているかを確認するほうが先です。



