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売却を相談した不動産会社の担当者から「うちで買主さんも探しますので」と言われて、なんとなく引っかかっている。あるいはネットで「両手取引」「囲い込み」という単語を見つけて、自分の物件は大丈夫なのかと不安になった。この記事にたどり着く人の多くは、たぶんそのどちらかです。
先に言っておくと、両手取引そのものは違法でも何でもありません。ただし、その報酬構造を知らずに媒介契約を結ぶと、売主が損をする方向に力が働きやすいのも事実です。仲介手数料は法律で上限が決まっていて、片手か両手かで会社の売上はきれいに2倍変わります。この差が現場の行動を左右する。
元デベロッパー系の仲介出身として、この構造を仕組みから整理して、最後に売主が今日か今週にできる確認事項まで落とします。
両手取引とは?売主と買主を1社が仲介する取引の呼び名です
両手取引とは、1つの不動産売買において同じ不動産会社が売主と買主の双方を仲介し、双方から仲介手数料を受け取る取引形態を指します。業界では「両手」「両手仲介」と呼びます。
対になるのが片手取引(分かれ、と呼ぶこともあります)です。売主から売却を依頼された会社と、買主を連れてきた会社が別々で、それぞれが自分の依頼主からだけ手数料を受け取る形。仲介手数料の支払い自体は売主・買主それぞれ1社分なので、売主から見れば支払う手数料は両手でも片手でも変わりません。ここは誤解されやすいところです。
では何が問題なのか。会社側の売上が2倍になるという一点が、物件の売り方を歪めることがある。以降で、手数料の計算、元付け・客付けという役割分担、囲い込みとの違い、そして媒介契約の種類による起きやすさの差を順に見ていきます。
なぜ両手取引だと不動産会社の報酬は最大になるのか【手数料の計算】
仲介手数料には宅建業法で上限が定められていて、売買価格が400万円を超える場合は「物件価格×3%+6万円+消費税」が上限です。この式は売主に対しても買主に対しても同じように適用されます。
片手取引なら、1社が受け取れる上限はこの式で算出される1件分。これを売主側の会社と買主側の会社が、それぞれ自分の依頼主から受け取ります。
ところが1社が売主と買主の両方を仲介すると、同じ式で算出される金額を売主からも買主からも受け取れる。単純に2件分です。取引としてはまったく同じ1件の売買なのに、手にする報酬だけが2倍になる。両手取引の理論上の上限は「6%+12万円」と表現されるのはこのためです。
率の構造は物件価格がいくらであっても変わりません。価格が上がるほど、片手と両手で生じる差額そのものは大きくなります。
僕が仲介の現場にいた頃の感覚で言えば、営業個人の評価は売上で決まります。1件で2件分の売上が立つ取引と、1件分しか立たない取引。同じ労力ならどちらを取りに行くかは、人間なので察してください。両手を狙うインセンティブは、悪意の有無とは関係なく、報酬制度の設計から自動的に生まれます。
元付け業者と客付け業者、この仕組みが両手取引を生む
不動産仲介には「元付け」と「客付け」という2つの役割があります。元付け業者は売主から売却の依頼(媒介契約)を受けた会社、客付け業者は買主を見つけて連れてくる会社です。通常はこの2社が組んで1件の売買をまとめます。
元付け業者は物件をレインズ(不動産流通機構が運営する業者間の物件情報データベース)に登録し、他社に「この物件、買いたい人いませんか」と流します。それを見た客付け業者が自社の顧客に紹介し、話がまとまれば、元付けは売主から、客付けは買主から手数料を受け取る。これが片手取引の流れです。
両手取引は、この元付けと客付けを1社が兼ねた状態を指します。自社の広告を見て問い合わせてきた買主と、自社が預かっている売主をそのまま結びつける形。物件情報を自社の中だけで完結させれば両手になり、外に流せば片手になる——この分岐点に立っているのが元付け業者です。
そして、外に流さないという選択を意図的に取ったときに起きるのが、次に説明する囲い込みです。
両手取引は違法ではない。問題になるのは「囲い込み」の方です
両手取引そのものは宅建業法で禁止されていません。自社の顧客同士がたまたま合意に至って売買が成立するのは普通に起こることで、それを不正だと言い始めたら仲介業は成立しません。売主が支払う手数料の額も、前述のとおり片手と両手で変わりません。
実害が出るのは、両手を取りにいくあまり他社からの購入検討の問い合わせを断って、物件を自社内に閉じ込める行為——いわゆる囲い込みが起きたときです。他社の客付け業者から内見の申し込みが入っても「今、商談中でして」とかわす。レインズに登録はするが、実質的に他社が扱えない状態にしておく。
売主にとって何が損かというと、買い手候補の母数が減ることです。本来10人の検討者に届くはずの物件が、1社の顧客名簿の中だけで探されることになる。結果として売却期間が延び、値下げ提案が早く来る可能性が高まります。手数料は変わらなくても、売却価格と時間で損をする。これが囲い込みの実害です。
「商談中です」と言われたときに何が起きているのか、どう確かめるかは「商談中です」の裏側―レインズ囲い込みの実態と対処法に詳しく書いたので、そちらを読んでください。この記事では、囲い込みが「起きやすい契約形態」と「起きにくい契約形態」がある、という手前の話に絞ります。
媒介契約の種類で両手取引の起きやすさは変わる
専任媒介・専属専任媒介は情報が1社に集中するため、一般媒介より両手取引と囲い込みが構造的に起きやすくなります。これは担当者の人柄の問題ではなく、契約の設計上そうなるという話です。
媒介契約は3種類あります。専属専任媒介は1社だけに依頼し、自分で買主を見つけてきた場合もその会社を通す必要がある契約。専任媒介も1社だけですが、自己発見取引(自分で買主を見つけること)は認められます。一般媒介は複数社に同時に依頼できる契約です。
専任系のメリットは、会社が広告費と労力を集中投下しやすいこと。他社に横取りされる心配がないので、腰を据えて売ってくれます。専任媒介・専属専任媒介では、レインズへの登録や売主への販売状況の報告について、宅建業法上一定の義務が課されています。具体的な期限や報告頻度は契約の種類によって異なるので、媒介契約書の該当条項を担当者に指し示してもらって確認してください。
問題は、その1社が物件情報の出口を全部握るという点です。他社に流すかどうかを判断するのも、他社からの問い合わせを受けるのも、その1社。囲い込みは「他社に流さない」という不作為で成立するので、外から見ただけでは判別がつきません。
一般媒介は複数社が同時に動くため、A社が情報を止めてもB社が売ってしまう。囲い込みの動機がそもそも成立しにくい構造です。ただし各社「うちが決めても他社に取られるかも」と考えるので、広告費の投下が薄くなりやすいという裏返しがあります。
僕の見方はこうです。都心のマンションなど買い手が自然に集まる物件は一般媒介でも十分回りますが、郊外の戸建てや土地、築古の物件は専任で1社に本気を出させたほうが結果につながりやすい。専任にするなら、囲い込みをさせない確認をセットで行う。この組み合わせが現実的です。
そして、どの会社を専任にするかを決める前に、少なくとも2〜3社の査定と販売方針を比べてください。査定額の根拠を説明できない会社、他社への情報開示について曖昧に答える会社は、その時点でふるいにかけられます。1社としか話していない状態では、比較対象がないので担当者の言い分が正しいのかどうか判断できません。不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由も併せて読むと、査定書の見方が変わるはずです。
売主が今日できること:レインズ確認と登録証明書の依頼
専任媒介・専属専任媒介を結んだら、まず担当者にレインズの「登録証明書」を出してもらってください。これは物件がレインズに登録されたことを証明する書面で、専任系の媒介契約では売主への交付が義務づけられています。何も言わなくても渡されるのが本来ですが、こちらから求めるまで出てこないケースもあります。
手順としてはこうです。まず、媒介契約書を受け取るタイミングで「登録証明書はいつもらえますか」と聞く。次に、届いた証明書に記載されている物件番号(登録証明書番号)とパスワード(確認用ID)を控える。最後に、レインズの売却依頼主向けページからその番号を入力して、自分の物件の登録内容と取引状況を確認します。売主本人が閲覧できる仕組みが用意されています。
見るべきポイントは2つ。登録内容が実際の販売条件と一致しているか(価格、面積、間取り、写真の有無)と、取引状況が「公開中」になっているかです。まだ買付が入っていないのに「書面による購入申込みあり」といったステータスになっていたら、その理由を担当者に確認してください。ここが囲い込みの入口になりやすい箇所です。
契約前にできる質問もあります。「他社から内見の依頼が来たら、どう対応されますか」。この一言に対する反応で、会社の姿勢はだいたい見えます。「もちろん全部お通しします」と即答する会社と、「まずは弊社のお客様を優先して…」と前置きが長い会社では、その後の販売活動が変わります。媒介契約を結ぶ前に、他社への物件公開方針を口頭で確認しておくこと。これが一番コストゼロで効く予防策です。
もうひとつ。販売開始から1〜2ヶ月経っても内見が極端に少ないのに、値下げの話だけが持ち上がってきたら、市場に本当に出ているのかを疑う根拠になります。売却全体の進み方と各ステップで確認すべきことは家を売る流れ全手順|8ステップと後悔しない媒介契約の選び方にまとめてあります。
なお、売却に伴う譲渡所得税や、相続した不動産を売る場合の取得費・特例の適用可否は、物件の取得経緯によって扱いが変わります。手数料の話とは別軸なので、税額の見込みは税理士に個別に確認してください。仲介会社の営業担当は税務の専門家ではありません。
Q. 両手取引だと売主の仲介手数料は高くなりますか?
売主が支払う仲介手数料は、両手取引でも片手取引でも変わりません。上限は「物件価格×3%+6万円+消費税」(400万円超の場合)で、売主は自分の分だけを支払います。増えるのは不動産会社の受取総額であって、売主の負担ではありません。注意すべきは手数料額ではなく、両手を狙うために物件情報が他社へ流れなくなる囲い込みのほうです。
Q. 「うちで買主も探します」と言われたら断るべきですか?
断る必要はありません。自社で買主を見つけること自体は仲介会社の正当な営業活動です。確認すべきは「自社で探すこと」ではなく「他社にも同時に流すこと」を約束できるかどうかで、「他社から内見依頼が来たらどう対応しますか」と質問し、即答で全件受けると答えるかを見てください。曖昧な回答なら、専任ではなく一般媒介を検討する材料になります。
Q. レインズに自分の物件が載っているか、売主本人で確認できますか?
確認できます。専任媒介・専属専任媒介では不動産会社にレインズ登録義務があり、登録後に売主へ「登録証明書」が交付されます。そこに記載された物件番号と確認用IDを使えば、売主向けの閲覧ページから登録内容と取引状況を自分で見られます。証明書が届かない場合は、媒介契約の履行に関わる書面なので、遠慮せず担当者に請求してください。



