業界のリアル

不動産チラシの査定額が相場より高い本当の理由

不動産チラシの査定額が相場より高い本当の理由

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ポストに入っていた一枚のチラシに、「このマンション、○○○○万円で売れます」と書いてある。近所の成約事例より明らかに高い。たとえば自分では3,000万円くらいだろうと思っていた部屋に3,300万円と書かれていたとすると、嬉しさ半分、疑い半分で手が止まると思います。

その感覚、正しいです。

僕は新卒でデベロッパー系の会社に入り、売却の現場にいました。チラシに載る数字がどういう工程で決まるのか、そして媒介契約を結んだあとに何が起きるのかを、内側から見てきた人間として書きます。

チラシの査定額は「相場」ではない、電話をさせるための入口価格

ポスティングチラシに書かれた査定額は、相場でも成約見込み価格でもありません。物件を見ずに算出された概算であり、多くの場合は電話やメールで反応をもらうための入口の数字として設計されています。

マンションのチラシなら、根拠は同じ建物や近隣の売出事例と面積だけです。室内の状態、リフォーム履歴、眺望、リビングの向き、上下階の音、管理組合の修繕積立金の状況──成約価格を左右する要素はほぼ全部、外からは見えません。見えない状態で出す数字なので、そもそも幅が広くなる。

さらに厄介なのは、幅があるときに上の方を書いても誰も怒らないという構造です。安く書いたチラシに電話をかける人はいません。高く書いたチラシには電話が来る。この一点だけで、業界全体の数字が上に寄ります。

だからチラシの金額は「その値段で売れます」という約束ではなく、会話を始めるためのフックだと理解しておいてください。そこを間違えなければ、チラシ自体は悪いものではありません。

なぜ相場より高く出すのか、「まず預かってこい」という指示と値下げまでの時系列

高値査定が出る最大の理由は、査定額を競わせて媒介契約を取りに行く営業構造にあります。ここは一般論ではなく、僕自身が指示を受けて実行した話として書きます。

入社2〜3年目、都内の区分マンションでの話です。上司から言われたのは、「他社に取られるくらいなら高めに出して預かれ」。査定書の根拠を精緻に詰めろでも、売主に正直に説明しろでもなく、まず預かってこい、でした。

結果、僕は相場より300万円ほど高い数字を提示して、専任媒介を取りました。

ここからが、チラシを見ている人にいちばん知ってほしい部分です。社内では最初から「3か月後に価格改定を提案する」前提で動いていました。つまり、その300万円は売るための価格ではなく、契約書にハンコを押してもらうための価格として最初から扱われていた。誰も隠していないし、誰も罪悪感を持っていない。それが普通の進め方として回っていました。

実際には3か月を待たず、2か月半で値下げを提案しました。売主は渋りました。当然です。高く売れると聞いたから任せたのに、2か月半後に「相場が厳しいので下げましょう」と言われる。それでも最終的には応じました。

なぜ2か月半なのか。媒介契約の期間が3か月だからです。専任媒介・専属専任媒介の契約期間は法律上3か月が上限で、更新時期の直前に価格の話をまとめておかないと、売主が他社に乗り換える余地が生まれます。値下げ提案のタイミングは、売主の事情ではなく契約の更新サイクルに合わせて設計されていると考えたほうが実態に近いです。

この構造で売主が失うのは、単純な300万円ではありません。失うのは時間です。相場より高い価格で出た物件は、最初の1か月に反響が集まる時期をほぼ空振りで消化します。売出情報として市場に出た直後がいちばん見られるので、そこを高値で潰すと、値下げした頃には「長く売れ残っている部屋」という見え方になる。買主側の営業も「これ、まだ下がりますよ」と言って交渉してきます。値下げしたあとの方が、値切られやすい。

だから僕は、高値査定を出す会社が悪徳だという単純な話にはしません。悪意ではなく、媒介を取らないと売上がゼロになる営業構造の産物です。ただし構造がそうである以上、売主側が自分で確認しないとそのまま巻き込まれます。値下げ提案を受けたときの判断材料については、不動産の値下げ提案タイミング、応じる前に見る数字で別途整理しています。

チラシの数字を鵜呑みにしない為に、今日確認すべきこと

やることは2つだけです。査定額の根拠を口頭で聞くことと、自分でも公的な取引価格データを見ること。どちらも今日できます。

まず、チラシの会社に連絡するなら、金額の話より先にこう聞いてください。「この金額の根拠になった成約事例を、同じ建物か近隣で3件教えてください。成約時期と専有面積と、㎡単価も一緒にお願いします」。

ここで会社の姿勢がほぼ分かります。成約事例を具体的に出してくる会社は、レインズ(不動産会社が使う物件情報の共有システム)の成約データを見て数字を作っています。一方、「今この地域は在庫が少なくて」「御社のお部屋は人気なので」と相場観の話に逃げる担当者は、数字の裏に事例を持っていません。売出価格と成約価格のどちらを見て査定したのかも必ず確認してください。売出価格は「売主の希望」であって、成約していない数字です。売出事例ベースの査定は、自動的に高く出ます。

次に、自分で調べる方法。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、実際の取引価格情報を地域や用途で検索できます。個人が無料で使えて、登録も不要です。自分の物件と同じ駅、同じくらいの築年数・面積の取引がいくらで成立しているかを10件ほど眺めるだけで、チラシの数字が上振れなのかどうかは肌感覚で分かります。

ついでにもう一つ。チラシに宅建業者の免許番号と担当者名が書かれているかを見てください。書いていないチラシは、そもそも不動産会社が出したものかどうかも怪しい。査定と名乗って個人情報だけ集める業者もいます。

一社の査定で決めない、金額の「分布」を見ると相場が見えてくる

チラシ1枚で判断してはいけない理由は、比較対象がないと高いかどうかを判定できないからです。3社に出してもらうと、金額そのものより数字の散らばり方が情報になります。

たとえば3社が3,000万円・3,050万円・3,400万円だとすると、見るべきは高い1社です。その1社だけが上に外れているなら、根拠を聞けばいい。合理的な説明(角部屋のプレミア、直近に同じ間取りが高く成約した、など)が出てくるなら本物ですし、出てこないなら入口価格です。逆に3社が近い数字で揃ったなら、そのゾーンが実際に売れる価格帯に近い。

ここで一番やってはいけないのが、一番高い金額を出した会社に反射的に専任媒介を預けることです。僕が300万円上乗せして預かれたのも、売主が金額の順番で選んだからでした。選ぶべきは金額ではなく、その金額を出した理由を説明できるかどうかです。そもそも査定額が会社ごとにここまで違う仕組みについては、不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由にまとめてあります。

とはいえ、チラシを見た段階の人が自分で3社を探して1件ずつ電話するのは、正直しんどい。特に平日に働いている人には現実的じゃありません。複数社の査定額をまとめて取り寄せられるサービスを入口にすると、金額の分布を見るところまでが一気に進みます。営業電話が増えるのは避けられないので、そこは査定後の営業電話がしつこい理由と対処法を先に読んでから使うのをおすすめします。

「売れない」と言われた物件でも

借地権、再建築不可、老朽化した空き家。一般の仲介で断られた物件を専門に買い取る会社があります。相談も査定も無料です。

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チラシを持ったまま、今週やること

売るかどうかをまだ決めていない人でも、次の2つは今週のうちにやっておいて損がありません。

  1. チラシの会社に電話するなら、最初に「根拠にした成約事例3件(成約時期・面積・㎡単価)を教えてください」と言う。売出事例か成約事例かを必ず区別する。
  2. 不動産情報ライブラリで、自分の物件と近い条件の取引価格を10件見る。チラシの金額がその分布のどこにあるかを確認する。

そのうえで媒介契約の話に進むなら、専任にするか一般にするかは急ぎ度と物件の競争力で決まります。相続した空き家や駅から遠い戸建てのように、動かすのに手間がかかる物件は1社に責任を持たせた専任のほうが動きやすい。人気エリアの築浅マンションで複数社から高い査定が出ているなら、一般媒介で並走させて反応を見る手もあります。判断材料は媒介契約3種類の違いと選び方にまとめました。

なお、売却で利益が出た場合の譲渡所得税や、相続した不動産の名義の扱いは、金額によって結論がかなり変わります。試算の段階で税理士や司法書士など専門家に一度確認しておくと、売ったあとで慌てずに済みます。

チラシの数字は、あなたの家の価値を教えてくれるものではありません。あれは会話の入口です。入口だと分かって使う分には、使い道があります。

よくある質問

Q. 不動産チラシに書かれた査定額に、法的な拘束力はありますか?

ありません。査定額はあくまで不動産会社の見込み価格であり、その金額での売却を保証するものではありません。実際の売出価格は売主が決め、成約価格は買主との交渉で決まります。査定額と成約価格が数百万円単位でずれることは珍しくないので、契約前に「この金額で売れなかった場合どうするか」を担当者に確認しておいてください。

Q. 高い査定額を出す不動産会社は、避けたほうがいいですか?

高いこと自体が問題ではなく、根拠を説明できるかどうかで判断してください。同じ建物の直近成約事例や面積単価を示して高値の理由を説明できる会社は信頼できます。一方、「人気エリアですから」「今なら高く売れます」と相場観の話に終始して具体的な事例が出てこない場合は、媒介契約を取るための入口価格の可能性が高いです。

Q. チラシを見て査定を依頼すると、しつこく営業されますか?

ある程度は来ると考えてください。不動産会社にとって査定依頼は最有力の見込み客情報なので、複数回の連絡は構造上避けられません。連絡手段をメールに限定したい、電話は平日夜のみにしてほしいといった希望は最初の1回目で伝えておくと、後から止めるより効きます。

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