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近所の不動産屋の看板は毎日見ているけれど、テレビCMをやっている会社のほうが高く売ってくれそうな気もする。査定サイトを開いては閉じて、もう1週間経っている。だいたいこのあたりで足踏みしている人が多いです。
先に言っておくと、大手か地場かという軸で悩んでいる限り、答えは出ません。会社の規模は、あなたの物件がどう売れるかとは直接つながっていないからです。選ぶべきなのは会社の大きさではなく、その物件を「どこの誰に当てるつもりか」を具体的に答えられる担当者です。この記事では、その質問の仕方と、聞いたあとの判断の仕方まで書きます。
大手と地場、そもそも何が違うのか(数字で見る規模の目安)
大手と地場を分ける明確な法律上の定義はありません。業界内でも厳密な線引きがあるわけではなく、あくまで目安として、全国に100店舗を超える会社を大手と呼ぶことが多い、という程度の区分です。規模感としては、業界大手の不動産会社が2023年に扱った年間仲介件数は1社につき約1万〜4万件(公益財団法人不動産流通推進センターの調査による、三井のリハウス公開情報)。これに対して地場の会社は、店舗が1〜数店、社長を含めて数名という体制も珍しくありません。
数字だけ見ると勝負にならないように見えます。ただ、年間4万件の会社があなたの1件にかける労力が4万分の1かというと、そういう話でもない。ここが混乱の元です。
「早く売るなら大手、高く売るなら地場」論の落とし穴
「早く売るなら大手、高く売るなら地場」という説明を、比較サイトのほとんどが採用しています。僕はこの二分法をあまり信用していません。売却スピードと価格を分けているのは会社の規模ではなく、買主を見つけてくる経路の違いだからです。
在籍時から独立後まで両方の動き方を見てきましたが、大手と地場は戦い方がまるで違います。大手は広告費と看板で反響を集めて、数で当てにいく。ポータルサイトに載せれば問い合わせが一定数来る前提で動けるので、母数で押し切るモデルです。地場はそれができない代わりに、昔から付き合いのある買主や地元の投資家に先に電話をかけます。広告を打つ前に、頭の中のリストに当てにいく。
だから「早いか高いか」ではなく、あなたの物件を欲しがる人が、広告の海にいるのか、誰かの携帯電話の中にいるのかという話になります。
一般的な立地の区分マンションなら、広告の海に買主がいます。似た部屋を探している人が常時何十人もいて、条件と価格が合えば手が挙がる。この手の物件は反響の母数がそのまま成約確率になるので、大手の戦い方と噛み合います。
一方、癖のある収益物件はそうはいきません。再建築不可、旧耐震、借地権、入居者の属性に難がある一棟もの。この手はポータルサイトに載せても、問い合わせの大半が冷やかしと業者からの買取打診で埋まります。そういう物件を買うのは「この条件でも回せる」と判断できる特定の投資家で、その人たちは物件を探しているというより、付き合いのある業者からの電話を待っている。地場の会社が強いのは、その電話をかけられる相手を何人持っているかという一点です。
「大手だから安心」という感覚は、物件によっては逆に働きます。全国規模の会社ほど社内の手続きやコンプライアンス基準が整っていて、扱いにくい物件は優先順位が下がりやすい。悪意ではなく、単純に処理件数で評価される組織の合理的な行動です。
もうひとつ、規模を問わず効いてくるのが両手仲介のインセンティブです。売主と買主の両方から手数料を取れる形にしたい動機は、大手にも地場にもあります。この構造は査定額の出し方や、他社からの問い合わせへの対応にまで影響します。詳しくは「商談中です」の裏側―レインズ囲い込みの実態と対処法に書きましたが、会社の看板で判断しても、この部分は見えません。
査定担当者に聞くべきたった一つの質問
査定に来た担当者には、「この物件を、どこの誰に当てるつもりですか」と聞いてください。今週の面談でそのまま使える一文です。売主が聞くべきは知名度ではなく、買主に届く経路の具体性です。
答えは大きく二つに割れます。「ポータルに掲載して反響を集めます」「弊社の会員データベースに登録して」というのが大手型の答え。これ自体は間違いではありません。ただ、それだけしか出てこないなら、その担当者はあなたの物件に固有の買主像を持っていないということです。「近隣で同じタイプを探している方が数組いる」「このエリアで買い増ししている投資家に心当たりがある」と具体名は伏せつつも像が出てくるなら、頭の中に当てる先がある。
ついでに確認しておくと効くのが、査定額の中身です。収益物件なら満室想定か現況家賃かを必ず聞いてください。空室が3室ある物件を満室想定で計算すれば、査定額はいくらでも膨らみます。居住用なら「近隣の成約事例か、売出中の物件の価格か」。成約していない売出価格を並べた査定書は、根拠として弱い。会社ごとに査定額が割れる理由は不動産の査定額はなぜ会社で違う?現場が明かす本当の理由で分解しています。
そしてレインズ(不動産会社間の物件情報共有システム)への登録をいつするか。専任媒介・専属専任媒介にはレインズへの登録義務があり、登録期限は媒介契約の種類ごとに定められています。具体的な日数は契約前に宅建業者や国土交通省の資料で確認してください。そのうえで「登録は少し様子を見てから」と言われたら、その理由を突っ込んで聞いてください。自社で買主を見つける時間を作りたい、という意味であることが多いです。
複数社に査定を依頼するなら、大手と地場を最低1社ずつ入れる
査定は3〜4社が実務上ちょうどいい数です。そのうち必ず大手を1社、地場を1社入れる。同じカテゴリの会社ばかり並べても、出てくる価格の根拠が似通って比較になりません。大手と地場を混ぜると、買主の当て先が違うぶん、査定額の差の理由が見えてきます。
5社を超えると、今度は電話とメールの処理で疲弊します。売却の判断より着信の対応に時間を取られるようになったら本末転倒です。断り方はシンプルで、「他社と媒介契約を結びました」の一言で十分。理由の説明義務はありません。それでも食い下がる会社は、その時点で候補から外していい判断材料をくれたと考えてください。営業電話の仕組みそのものは査定後の営業電話がしつこい理由と対処法を元業界人が解説にまとめています。
査定額の見方として、一番高い数字に飛びつかないこと。仮に3,000万円、3,200万円、3,600万円という三つの査定が並んだとすると、3,600万円の会社が最も高く売ってくれるとは限りません。媒介契約を取るために高めに出し、契約後に値下げを提案してくるパターンは実際にあります。見るべきは金額そのものではなく、その金額の根拠として提示された成約事例です。
ここまで読んで「とりあえず数社の査定額と担当者の話を並べてみないと判断できない」と思ったなら、それが正しい順番です。査定は無料で、依頼したからといって売る義務は発生しません。大手と地場が同時に候補に出てくる窓口から始めるのが手間としては早い。
大手・地場、どちらが向いているかの分岐条件
物件タイプで分岐条件を整理します。駅近の区分マンション、築浅の戸建て、整形地の土地なら大手寄り。買主候補が広く分散していて、広告の露出量がそのまま成約確率になるタイプです。転勤や住み替えで遠方から探している買主も多く、全国ネットワークが実際に効きます。
再建築不可、借地権、旧耐震の一棟もの、地方の農地に近い土地なら地場寄り。買主が限定されていて、その限られた人たちと繋がっている会社にしか当てられません。相続で受け継いだ実家など、地縁が濃くて隣地所有者が買い手候補になるケースも地場が強い領域です。
迷ったら、両方に査定を出して当て先の答えを比べる。大手の担当者が具体的な買主像を語り、地場の担当者が「とりあえず広告出します」しか言わないなら、迷わず大手を選んでください。会社の規模より、目の前の担当者が持っている引き出しのほうが結果を左右します。区分マンションの売却で高査定に引っ張られた失敗の型は区分マンション投資の失敗事例|高査定という罠と出口戦略に書いています。
今週やること、契約時にやること
今週できることは、査定依頼を出すときに大手と地場を最低1社ずつ混ぜること。そして面談では「この物件をどこの誰に当てるつもりですか」と聞き、返ってきた答えをメモしておく。3社分並べると、担当者の解像度の差がはっきり出ます。
媒介契約を結ぶときにやることは一つ。レインズ登録証明書を必ず受け取ってください。専任・専属専任媒介では登録後に発行されるもので、登録内容を確認できる仕組みがあるので、証明書を受け取ったら記載内容にひととおり目を通してください。「後で送ります」と言われたまま音沙汰がないなら催促する。この一手間があるかないかで、囲い込まれるリスクはかなり変わります。
売却全体の段取りを先に把握しておきたいなら、家を売る流れ全手順|8ステップと後悔しない媒介契約の選び方を先に読んでおくと、査定面談での会話が噛み合いやすくなります。なお売却益が出る場合の税金や、相続した不動産の名義の扱いは個別事情で結論が変わるため、税理士や司法書士など専門家への相談を挟んでください。
よくある質問
Q. 大手と地場、両方に査定を頼んでも失礼になりませんか
まったく問題ありません。複数社への査定依頼は業界では当たり前で、担当者側も他社と比較されている前提で来ています。むしろ1社だけで決めるほうが、その査定額が妥当かどうかを判断できず不利になります。3〜4社に依頼し、そのうち大手1社・地場1社を入れるのが実務上バランスの取れた数です。
Q. 地場の不動産会社はどうやって探せばいいですか
売りたい物件のエリア名と物件種別でポータルサイトを検索し、そのエリアの物件を継続的に扱っている会社を見つけるのが一番早いです。同じエリアの売出物件に何件も名前が出ている会社は、その地域で買主のリストを持っている可能性が高い。宅地建物取引業者名簿は各都道府県庁で閲覧でき、免許番号のカッコ内の数字(更新回数)から営業年数の目安も分かります。
Q. 査定額が会社によって数百万円も違うのはなぜですか
査定額は取引価格の保証ではなく、各社が「この価格なら売れると考える」推定値だからです。参照した事例が成約価格か売出価格か、収益物件なら満室想定か現況家賃か、媒介契約を取りたい意図がどれだけ乗っているかで数字は動きます。金額そのものではなく、根拠として提示された成約事例を比べてください。



